猪熊と落合は落下して回収した空気清浄機を前にして思案していた。
たった2週間で、フィルターは油でベトベトになっていた。
つまり厨房の空気中に油がかなり浮遊していると推測できる。
よくよく考えれば、毎日スープの仕込みで出るニオイとは別に
長年、床や壁に染み付いたニオイもある。
光触媒の脱臭性能がいかに高くても、この環境はあまりにも不利な戦いだった。
10月に入って、Kさんに空気清浄機の効果を尋ねると「まったく、ぜんぜんだねー」と
直球のダメ出しが返ってきた。社長の牛久保さんも笑いながら「うーん」と言葉を濁すばかり。
8月末から始まった、ホープ軒夏の陣。これはもう負け戦を認めるしかない。
「万事休すか」
カルテックの製品の中に、光触媒の脱臭機能がついたLED電球がある。
もう壁に設置する余裕が無ければ、次は天井だ。
いざとなれば、その製品も投入する覚悟だ。
光触媒を認めてもらいたい。その意地だけで落合と猪熊はホープ軒に通っている。
カルテックは世界一の光触媒メーカーを目指す会社なのだ。
そこは譲れない。
このチャレンジの最終ゴールはどこか。
「ホープ軒さんにラーメンを奢ってもらうこと!」
と落合は笑う。
これまで何度も店を訪れているものの、ラーメンを食べたのは視察の際に自腹で食べた1杯のみ。
あとは人一倍、厨房の中でラーメンのニオイを嗅いでいるだけ。
いつ行っても券売機を掃除をしている社長の牛久保さんから一度も「食べていきなよ」と言われたことがない。
8月の寄贈式の日、商店街の人たちから「ホープ軒のニオイは無理だ」と言われたことを思い出す。
「やっぱり、そうかな・・・」と弱音を吐くことも。
しかし負けっぱなしではいられない。
ちゃんと性能が発揮できる環境なら必ず効果はあるはず。
「いやー、光触媒いいねえ。ニオイが消えてきた」
そう認めてもらえる日までチャレンジは終わらない。
なんとしてもラーメンを奢ってもらうのだーー!
12月26日、クリスマスの翌日
日曜日の朝からラーメンを食べる多くのお客さん、1階席だけでなく2階席も埋まり始めていた。
設置させてもらった除菌脱臭機の全てのプレフィルター・フィルター交換を終え、Kさんに年末の挨拶を済ませた。
やはり床や壁には相当のニオイが染みついているのだろう。それはわかっている。
でもカルテックなりになにかできないか、いや来年こそは何か貢献したいと決意を新たに、除菌脱臭機の本体に大きな社名の入ったステッカーを貼った。
「爪痕を残すんだ」
落合は店を後にした。。。。
次回に続く